PSpice(評価版)で
NF型イコライザーをStudyする
その2


前回PSpice(評価版)でNF型イコライザーをStudyした際には、新単行本登載の高出力MCプリのNF型イコライザーアンプではそのループゲインが0dBに沈む周波数における位相回転が−160°に達してしまうなど、そのシミュレーション結果には少し疑義が残った。

そこでK式御用達素子モデルがかなり揃ったことでもあるし、この際現代完全対称NF型イコライザーを再度Studyしてみよう。

最初は高出力MCプリだ。

アンプ出力にはNF型イコライザー回路を接続し、アンプ出力点における電圧利得、NF型イコライザー通過後の電圧利得とその位相を測定するのは前回と同様である。出力にR11=820kΩがパラになっているがこれはEQにつながる次段フラットアンプの入力抵抗である。

オリジナル高出力MCプリの回路とは僅かに違いがある。初段のFETが2SK117だ。2SK97と2SK245のモデルがないので代用したのだが、gm的にはごく近いFETでありCissやCrss的にもシミュレーション上は代役として十分以上だ。またHZ6C2の代役として05AZ6.2を起用し、評価版の制約上回路にはTRが10個以内でなければならないので初段の定電流回路は電流源で代用してある。

オフセットは初段のトリマーで調整し、この状態で終段Q3のアイドリング電流は2.662mA、Q4は3.35mA、オフセットは−183.6mVとなっている。今更だが、Q4の方が0.688mA多いのはR8経由でやって来る二段目差動アンプ右側の動作電流をQ4が吸い込まなければならないためである。要するに二段目差動アンプ右側の動作電流分だけ終段下側のアイドリング電流は上側より多いのである。







その電圧利得・位相特性だが、緑がアンプ出力点における電圧利得、赤がNF型イコライザー回路出力点の電圧利得、青がNF型イコライザー回路出力点の出力電圧の位相である。

グラフ左の縦軸の左側が電圧利得の軸であり単位はdB、右側が位相の軸で単位は度だ。横軸は勿論周波数。

オープンゲインは10Hzで86dB、1kHzで74dB、100kHzで40dBであり、5MHzで0dBに沈むことが分かる。

赤のNF型イコライザー回路出力点の電圧利得は、すなわちNFB電圧(量)そのものであり、理想NF型イコライザーであるから周波数にかかわらず一定なのである。と、言いたいところ、残念ながら現実界の制約により低域及び高域で理想から外れている。すなわち理想NF型イコライザー方式により理論的にはこの場合周波数にかかわらず32.5dBのNFB電圧(量)になるべきところ、低域については2段目及び終段の出力インピーダンスが無限大でないこと並びに次段の入力抵抗である820kΩが出力にパラ接続になることによって、高域についてはそもそものアンプ回路のオープンゲインが高域ほどに低下することによって、それぞれ理想から外れてNFB電圧(量)が低下している。低域では10Hzで−9db程度か。

が、200Hzから100kHzまではNFB電圧(量)はほぼ一定である。理想NF型イコライザーであるからなせる理想的状態だ。

青がNF型イコライザー回路出力点の出力電圧の位相であるが、これがすなわちNFB電圧の位相である。理想NF型イコライザーであるから周波数にかかわらずその位相は0°である。と、言いたいところ、残念ながら0°なのは6kHzの1点だけでそれ以下の周波数では進み位相であり70Hz付近で最大29°の山を形成し、それ以上の周波数では遅れ位相で遅れが進むだけである。

低域での進み位相、高域での遅れ位相ともその要因はNF型イコライザー回路出力点の電圧利得が理論値から外れてしまう要因と同じであるが、10Hzから20kHzまでにおいて−10°から+30°に収まっている。実はこれも理想NF型イコライザーであるからなせる理想的状態だ。

が、問題は高域における位相回転だ。理想NF型NFB回路を経由しようとも、アンプ本体が持つ時定数(=現実界の制約)のために高域で信号位相が回転することは避けられないのである。とすると、NFBを掛けて安定に動作する状態にするにはNFB電圧(帰還電圧)の位相回転が−120°に達する前にループゲインを1倍(=0dB)以下に沈めることが必要だ。




ここで、緑のオープンゲイン電圧利得と赤のNF型イコライザー回路出力点の電圧利得=NFB電圧(帰還電圧)が1MHz付近から高域では一致していることが分かるが、これは即ちこの回路では1MHz付近以上の高域ではNFB電圧=オープンゲイン、要するに100%帰還、β=1になるということである。であるから、この場合ループゲインが0dBとなるポイントはオープンゲインの電圧利得グラフ(=緑)が縦軸0dBと交差する周波数であるということになる。

グラフからそれは5MHzだ。そこで、その周波数における帰還電圧の位相のグラフ(=青)を読みとると−120°だ。
上手い! 初段に入っているステップ位相補正が効果的に利いているのだ。

やはり前回のシミュレーションは、使用した素子モデルの関係でイマイチ現実的ではなかったのだろう。
今回のシミュレーションによれば、単行本掲載の高出力MCプリのイコライザーアンプ、全く安定に動作するだろう、という結論になる。

「・・・・・・」 はっ。 m(__)m




低域の方については、オープンゲイン上昇を理想から外してしまう要因で最も大きいのが次段フラットアンプの入力抵抗820kΩだ。
そこでその820kΩを外した場合をシミュレーションしてみよう。





オープンゲインは10Hzで90dB、1kHzで74dB、100kHzで40dBであり、5MHzで0dBに沈むことが分かる。
低域でのオープンゲイン上昇がかなり理想に近づき、結果低域での位相回転も60Hz付近で20°と9°減り、低域でのNFB量低下も10Hzで−6dB程度に減った。

ちなみにこの結果は新単行本におけるK先生の実測結果に非常に近い。もしかするとK先生の実測はEQ単体でなされ、次段の820kΩは接続されていない状態のものかもしれない。

このように次段の入力抵抗820kΩを省くとより理想的になるといっても現実に次段の820kΩを省略してしまってはいけない。これは次段2SK246のゲートにアース電位を与えているものだからだ。では、と言うわけで理想状態に近づける方法としてはNFB回路のインピーダンスを全体的に下げるという方法も考えられる。こちらは試してみる価値はあるような気はするが、今度はNFB回路のインピーダンスを下げた分オープンゲインも下がってしまう。したがって今度は適切なNFB量が設定できるかが問題となるだろう。結局音を聴いてみないと何とも言えない。

K先生はそんなことはすでに試された上でのこの回路なのだろうなぁ、と思うと自分で試してみる気にはならないのであった・・・(^^;






初段に入っているステップ位相補正を外してみると、その偉大な効果が分かる。

たったの180Ω+270pFなのだが・・・






なんと100kHz以上の高域が大幅に伸びる。ループゲインが0dBに沈むポイントは40MHzと一桁伸びた。本来こんなに広帯域なのだ、と言うことになる。

位相の方も100kHzから1MHzあたりまでは随分回転が遅くなったが、素子の高域限界は当然あるのであって、それ以上の帯域では初段ステップ位相補正がある場合以上に急激に回転している。

位相回転が−180°に達するのは12MHz程度であろうか。この点でオープンゲイン(この場合=ループゲイン)が15dB程度あるから、これでは発振が必至だ。

初段に入れられたステップ位相補正は、100kHz程度から10MHz程度までのゲインを絶妙に殺して、結果NFB安定度を上手く確保しているということが分かる。






No−168MCプリアンプのイコライザーアンプである。

オリジナルと僅かに異なる点は上の高出力MCプリと同様の理由である。2段目差動アンプの共通ソース抵抗R3が4.3kΩとオリジナルの4.7kΩより小さいのは終段アイドリング電流調整の結果である。

この状態で終段Q3のアイドリング電流は2.187mA、Q4は2.772mA、オフセットは10.85mVとなっている。




オープンゲインは10Hzで91dB、1kHzで78dB、100kHzで42dBであり、5.5MHzで0dBに沈むことが分かる。

これは出力に次段入力抵抗イメージの820kΩがパラになった場合のものだが、これと同様な状態での高出力MCプリの方は
10Hzで86dB、1kHzで74dB、100kHzで40dBで、5MHzで0dBに沈むものだったから、2段目に2SJ103を使用したNo−168の方が全体的にオープンゲインがやや大きいものであることが分かる。

この場合出力の820kΩを取り去れば10Hzでのオープンゲインは95dBには達するだろう。K先生の新単行本上巻P118の図109の実測特性にほぼ等しいものになるだろうか。

さて、これのループゲインが0dBとなるポイントにおける位相回転は−135°と安全域の−120°を超えている。が−180°に対してはなお位相余裕が45°あるからこれで必ず発振してしまうというものではないだろう。実際我がNo−168MCプリアンプはオリジナルどおりの位相補正で全く安定に動作している。

そもそも、と言ってしまうと元も子もないのだが、MHz領域については回路図に表われない高域要素(浮遊容量や配線インダクタンス等)の影響が大きくなって現実どういう状態か分からないので、シミュレーション結果だけを厳密に観てあれこれ言ってもしょうがないところがある。

シミュレーションで概略傾向を探り、後は現物合わせということが必要なのだ。初段ステップ型位相補正もその定数は最終的には音を聴きながら現物合わせで詰めていけば良いのである。



その際、ステップ位相補正のR14、C5の定数設定がどのような方向の効果を生じるのかを知っていると非常に楽なのだが、それにはシミュレーションが大変役に立つ。

そこでPSpiceのパラメトリック解析で、R14を135Ω、270Ω、540Ωと変化させた場合の変化を観ることによりR14がどの様な効果を発揮するのかを考えてみる。




これでR14は、利得的には500kHz〜60MHz程度の範囲で、位相的には100kHz〜10MHz程度の範囲でその効果を発揮していることが先ず分かる。

凡例左からR14=135Ω、270Ω、540Ωの場合であるが、利得的にはR14が大きい方が500kHz以上の利得が伸びることが分かる。そしてその結果ループゲインが0dBに沈む周波数も高域に伸びる。

位相の方もR14が大きい方が100kHz〜10MHz程度の範囲で位相回転が遅れることが分かる。が、結局素子の高域限界にひっかかるのだろうか、10MHzに至ればどの抵抗値でも位相回転は同じに収斂してしまう


が、この辺の定数値でちょうど1MHzから10MHzでループゲインが0dBに沈む周波数が移動し、また、位相回転も動くという点が位相補正的に全くにミソな部分という訳だ。

これを観るとR14=135Ωではループゲインが0dBに沈む周波数&位相は3.5MHz&−135°、R14=270Ωでは5.5MHz&−135°、R14=540Ωでは10MHz&−170°であるから、この場合は少なくともR14はむやみに大きくしない方が吉だということが分かる。






次にR14を270Ωに戻して、C5の方を165pF、330pF、660pFと変化させた場合のその効果を観てみよう。




凡例左からC5=165pF、330pF、660pFの場合である。

C5の方は利得、位相とも大体10kHzから10MHzの範囲で効果を発揮しているものであることが分かるが、利得についてはC5が大きい方が10kHz以上での利得減衰が早まるものの、300kHz付近から減衰速度を逆に緩めて、結局ループゲインが0dBに沈む周波数となる5.5MHz以上の周波数ではどの定数でも減衰カーブは同じものに収斂するということが分かる。

位相の方はC5が大きいほどに低い周波数から位相回転速度を速めるものの、C5が大きいほどに300kHz付近で位相回転の戻りが大きくなり、結果C5が大きい方がMHz付近では位相回転が遅れるという効果を発揮することが分かる。まぁこれがステップ位相補正の位相回転のステップということであろう。

結果、この場合ループゲインが0dBに沈む周波数5.5MHzにおける位相回転は、C5=165pFでは−147°、C5=330pFでは−135°、C5=660pFでは−125°となっている。

上のR14の定数設定の効果も踏まえた場合、もしオリジナルの設定でちょっと不安定だというようなことがあった場合には、初段ステップ位相補正の330pFを少し大きいものに交換してみると吉かもしれない。ということが分かるわけだ。




ところでNo−168においてK先生は終段には2SC1775Aでも十分でありCobも遥かに少ないので高周波特性も良いはずだが、比較テストをすると音楽表現力は圧倒的に2SC959が良いとおっしゃっている。

ので、電気的特性の良い2SC1775を終段に起用した場合にはどのような特性になるか観てみよう。

オフセット調整のため初段トリマーの抵抗値が少し変わっただけでその他には何も変更はない。この状態で終段Q3のアイドリング電流は2.299mA、Q4は2.887mA、オフセットは117.2mVとなっている。





オープンゲインは10Hzで94.5dB、1kHzで79dB、100kHzで42.5dBであり、9.5MHzで0dBに沈むことが分かる。

終段が2SC960の場合はこれが10Hzで91dB、1kHzで78dB、100kHzで42dBであり、5.5MHzで0dBに沈む結果であったから、なるほど電気的特性は2SC1775が上だ。

先ずは低域の10Hzでのオープンゲインの差だ。3.5dBも2SC1775の方が理想に近い。この結果低域での帰還電圧の位相の0°からの乖離も60Hz付近で22°程度と改善されているし、帰還電圧自体の低域での低下も小さくなっている。

両者において素子を変えた以外に変更点はないから、この差の原因は2SC960と2SC1775の出力インピーダンスの差としか考えられない。2SC1775の方が2SC960より出力インピーダンスが高いのだ。この点は全体的に2SC1775起用時のオープンゲインが僅かに大きいという結果ももたらしたものと思われる。

あとはやはり高域の伸びか。オープンゲインが0dBに沈むポイントが5.5MHzから9MHz程度に伸びたし、1MHz付近で位相の回転も緩やかになった。

が、高域特性が良くなったことは必ずしも幸福をもたらすものではない。というのは結果的にはこの場合9MHzにおける位相回転は−140°超とかえって位相余裕が少なくなってしまっているのだ。




もしこれで発振または発振ぽくやや不安定ということであれば、NFB回路の1500pFに超高域の帰還を制限するための3.6kΩなりをシリーズに入れるか、あるいは位相補正をなんとかするかと言うことになるが、ここではこれまでの検証から位相補正の270Ωを150Ωに減らして高域での利得減衰を早めて対処できないかやってみる。






うまくいったようだ。利得交点周波数は5.5MHzに下がり、その点での帰還電圧の位相回転は−125°に収まった。

が、折角高域特性の優れたTRを起用して高域特性が伸びるのに、NFB安定動作を図るために位相補正で伸びた高域特性を元に戻しているのだから、世話がないと言えば世話がない。








要するにCobの多寡の問題であるなら、Cob代わりに2SC1775のB−C間に外付けのCを取り付け、パラメトリック解析でCの多寡がどのように利くのかを観てみよう。

パラメトリック解析でcval=0pF、5pF、10pF、15pF、20pF、25pF、30pFの場合である。






これで終段TRのCobの効果が分かるが、単純だ。

要するにCobは多いほどに300kHz程度以上での利得減衰が早まるとともに100kHz程度以上の位相回転も早まる。

重要な問題は、それが初段のステップ位相補正で調整しようとするループゲインが0dBに沈む周波数やその周波数ポイントでの位相回転に重複するポイントであるということだ。

この結果からすると、完全対称型プリにおいては少なくともMCイコライザーアンプでは終段TRのCobの少なさなど、その高域特性をうんぬんしてもあまり意味はなさそう、ということになる。

それより初段のステップ位相補正をどう上手く調整してループゲインが0dBに沈むポイントにおける位相回転を適切に設定するか、の方が重要なのだ。

すなわち、完全対称型MCイコライザーアンプでは、終段TRのCobがちょうどその辺の微妙な周波数やその点における位相回転に大きな影響を及ぼす。だからこそ初段の位相補正もその部分に効力を及ぼせる設定にしてある訳だ。だから終段のTRを変更した場合には、殆どの場合は初段のステップ型位相補正は調整のし直しが必要となるだろう。

て、まぁ、現実には発振しないのであればそれで良いわけだが(^^;

調整が面倒だ、という場合は、GOA時代までのようにNFB回路の1500pFに3.6kΩの帰還量制限抵抗を入れて解決するのが効果的で楽な方法だ。ということになる。




次に、ちょっとした実験として、終段のエミッタ抵抗を2kΩから1kΩに変更してみる。終段は2SC960に戻してある。

こうすると、終段の電流ゲインは倍になるがその出力インピーダンスは下がる。したがって両方の効果は総合的には相殺される方向だが、変更前とは微妙に異なる特性にはなるだろう。






オープンゲインは、10Hzで92.5dB、1kHzで80.5dB、100kHzで45dBであり、6.5MHzで0dBに沈む

エミッタ抵抗が2kΩであった場合はこれが10Hzで91dB、1kHzで78dB、100kHzで42dBであり、5.5MHzで0dBに沈む結果であったから、10Hzで+1.5dB、1kHzで+2.5dB、100kHzで+3dbでループゲインが0dBに沈む周波数は1MHz高域に伸びたということになる。

なるほど終段の利得upによって全体的な電圧利得も僅かに上昇するようである。が、終段の出力インピーダンスが下がることが要因と思われるが、その利得upは低域ほど少なく、その結果低域ほど理想値からの乖離が大きくなってしまうというデメリットも生じてしまっている。その結果が低域での帰還電圧と中域での帰還電圧との乖離が大きくなったという結果と帰還電圧の位相が低域でよりプラス側に大きくなったという結果に現れている。

総合的にはこの変更は改善とは言えないだろう。




なるほど。

では、終段のエミッタ抵抗は折角なのでこのまま1kΩとして、終段の電流ゲインをオリジナル程度とするためにそのベース抵抗も5.1kΩと半分にしてみたらどうなるだろうか。





オープンゲインは、10Hzで92dB、1kHzで79dB、100kHzで42.5dBであり、7.5MHzで0dBに沈む。

これがオリジナル(ベース抵抗9.1kΩ、エミッタ抵抗2kΩ)では、10Hzで91dB、1kHzで78dB、100kHzで42dBで、5.5MHzで0dBに沈む結果であったから、10Hzで+1dB、1kHzで+1dB、100kHzで+0.5dbでループゲインが0dBに沈む周波数は2MHz高域に伸びたということになる。

この方が利得上昇があるにもかかわらず低域でその上昇が鈍るということもなく、結果帰還電圧の低域での減少もその位相回転の乖離も大きくなっていない。

使える結果だ。

なお、この場合、ループゲインが0dBに沈む周波数が2MHz高域に伸びた点も要注目だろう。なぜか?って、どうも回路内の抵抗値を小さくするとインピーダンスが下がることが利くのか、全体として高周波特性が良くなってこれが高域に伸びる傾向が一般であるようであるからなのである。しかし、それだけなら良いのだが、残念ながら位相回転の方はそれについてこれず、この結果高周波特性が良くなってもかえって不安定になってしまうという最終結果になってしまうようなのだ。




これは新単行本上巻の高出力MCプリアンプの前に何故か載っているMCプリアンプ(Tr)だ。

そのゲイン実測値が図125ということなのだが、ちょっと実際に作られたものかは疑義があって、高出力MCプリアンプの前座のイメージではないかとの感じもするのだが・・・(^^;

早速シミュレーションしてみよう。R3が単行本では270Ωのところ330Ωになっているがこれは素子のばらつきによるものである。これでQ3のアイドリング電流=2.692mA、Q4のアイドリング電流=3.382mA、出力のオフセット電圧=−14.14mVとなっている。






オープンゲインは10Hzで85dB、1kHzで73dB、100kHzで40dBであり、8MHzで0dBに沈むことが分かる。
高出力MCプリは10Hzで86dB、1kHzで74dB、100kHzで40dBであり、5MHzで0dBに沈むものだったから、ほぼ同等である。

NFB電圧(量)も中域で32.5dB程度で低域では10Hzで−10db程度とちょっとだけ(1dB)悪いか。そのせいで低域の位相回転は70Hz付近で最大31°の山とこちらも僅かに悪いが、まぁ、ほぼ同等と言って良いだろう。

が、初段の位相補正についてはどうも詰めた結果の定数ではないのではなかろうか。
この状態ではループゲインが0dBに沈む周波数におけるNFB電圧の位相回転は−150°を超えており、ちょっと危ない範囲だ。





ステップ位相補正素子の最適値を探ろう。

まずはR15。rval=17Ω、34Ω、68Ω、136Ω、272Ω、544Ωのパラメトリック解析である。





凡例左からrval=17Ω、34Ω、68Ω、136Ω、272Ω、544Ωである。

上でもNo−168の回路で実験済みなので予想通りなのだが、このRは大きくなるほどに超高域、特に利得が0dBに沈む付近での位相回転を遅らせる効果を発揮することが分かる。そういう意味ではこの抵抗は大きいほど良いのだが、残念ながらそれに伴って高域特性も良くなり、利得が0dBに沈むポイントも逃げるようにさらに高域側に移行してしまうのである。

よってこの場合、C1=200pFのままではR15をいかに設定してもその努力は徒労であることが明らかだ。






そこで今度はR15=68Ωに固定し、C1の方を動かしてみる。cval=50pF、100pF、200pF、400pF、800pFのパラメトリック解析。





凡例左からcval=50pF、100pF、200pF、400pF、800pFである。

これも予想通りだが、ステップ位相補正のCは、それが大きいほどに高域での利得減衰を早めるという効果を生じる。その意味ではRとは逆方向の効果である。

が、最も重要なのは、位相特性においてCの値が大きいほどに利き始めにおいて位相回転をより早めるものの、Cが大きいほどに途中からの位相戻し効果が大きくなって、結果超高域ではCが大きいほどに位相回転が遅くなるということである。

ステップ位相補正のキモはこれだ。

ここでも下のグラフで明らかなように、C1は200pFでは不足で400pFから800pFにすると上手く行きそうだということが分かる。






この結果からC1=510pFとして再度R15の最適値を求めるために、rval=33Ω、68Ω、120Ω、240Ωでパラメトリック解析をしてみよう。




凡例左からrval=33Ω、68Ω、120Ω、240Ωである。

この結果は、33Ωと240Ωは妥当でなく、68Ωでもまぁまぁだが、120Ωが最適という予言である。





こうして求めたPSpice(評価版)が予言する新単行本上巻図123MCプリアンプ(Tr)のイコライザー部のステップ位相補正定数がこれである。



同じくPSpice(評価版)の予言するその場合の特性はこうだ。

ループゲインが0dBに沈む周波数は8MHzであり、その点での帰還電圧の位相は−120°以内であるから、NFB後もこれで極めて安定に動作するだろう。




最後に我がNo−128(?)完全対称型プリアンプのイコライザーアンプである。

実は製作記ではフラットアンプの方だけ取り上げて更新状況を書いたのだが、同時にイコライザーの方も下のように回路変更をしていたのである。その点の記載は怠っていたのだ。(^^;

変更箇所は、初段のドレイン抵抗を680Ωから2.2KΩに大きくしたこと。そのため2段目差動アンプの共通ソース抵抗が1.5kΩとなっていること、NFB回路の1500pFにシリーズに挿入していた3.6kΩを撤去したことである。

その他は従前どおりで初段にも2段目にもカスコード回路がないオリジナルNo−128(?)のエッセンスを継承したシンプル回路だ。

終段2SC1775のB−C間に3pFを取り付けているのは、実機の2SC984に近づけるためである。

この状態で、Q3のコレクタ電流は2.388mA、Q4のそれは3.003mA、出力オフセットは56.26mVとなっている。

今となってはこのシンプル回路、果たして最新のNo−168や高出力MCプリに伍して存在を主張できるものなのであろうか。





ははははは・・・。

おっと、失礼。m(__)m

オープンゲインは10Hzで86dB、1kHzで76dB、100kHzで43dBであり、7MHzで0dBに沈む。

中域で僅かにゲインが大きめなのは初段の負荷抵抗が2.2kΩと大きいからであろう。また、2段目にカスコード回路がないことによって2段目の出力インピーダンスが相対的に低く、そのためオープンゲインの低域での伸びがこれまでの事例より十分でないことが明らかだ。その証拠が帰還電圧の位相が80Hz付近で+38°とこれまでで最大であることと、同じく10Hzでの帰還電圧が中域の−13dBとこれまでで最大の乖離であることに現れている。

が、では使い物にならないか、と言うとそうでもないだろうと思うのだ。
あぁ、この程度の違いに収まるのか。とも言えるだろう。




青がNFB後の仕上がりの出力特性のシミュレーションだ。

全く問題ないRIAA特性になる。
確かに中域で35dBのNFBに対して300Hz以下の帯域で徐々にNFB量が減って10Hzでは22dB程度のNFBになるわけだが、これでも十分ではないか。と思うのである。

そんな超高域までシミュレーターが計算した結果が正しいのものかどうかは不明だが、100MHzにおける位相回転をみると分かるように、カスコードを付加していないこれが最も位相回転が少ないのである。この辺はCobとかの寄生容量というよりfT等のそもそものTrの高域限界の世界だが、この結果にはfT等の素子の高域限界による位相回転の要素がより増幅素子の少ないこのシンプル型では少ないために、位相余裕的には有利に働いていることが現れているように思うのである。




というのは、
この回路の場合は位相補正が220Ω+200pFで、利得交点周波数7MHz&位相回転−120°により実機もすこぶる安定に動作しているが、実はこれを330Ω+300pFとすると利得交点周波数10MHz&位相回転−120°も実現できるのである。




そういうこともあって、このシンプル型にもシンプル型の存在意義があると思えるのだ。
よって我がNo−128(?)は当面はこのまま存在することになるだろうて。と言う訳なのだ。(^^)





以上、毎度のことだが、このシミュレーション結果及びその解析にはなんの保証もないので悪しからず。(^^;

ところで、K先生の「 オーディオDCアンプ 製作のすべて 上巻」が出て早1年である。下巻の発行が待ち遠しい今日この頃だ。




(2004年3月7日)